【脳卒中】半側空間無視と視覚ワールド

視覚

こんにちは。
作業療法士のブログ、ふじいろブログです。


脳卒中(脳梗塞、脳出血)に携わったことがある方なら、半側空間無視という言葉を一度は聞いたことがあると思います。


半側空間無視とは、目が半分見えなくなるという事ではありません。


脳の病変により「空間の半分を無視する」という状態なのですが、今回はそれがどういうことなのか、お伝えできればと思います。

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視覚の経路

まず目で見たものを脳が理解・解釈するまでの神経経路について、簡単に説明します。

目から入った光の情報は、目の奥にある網膜で感知され、視交叉を通り、脳の最も後ろの部位の後頭葉に達します。

視神経経路:上から順に網膜視交叉後頭葉(赤字のみ)

後頭葉は視覚野と呼ばれ、脳が見たものを最初に認識する場所です。

右側から入った視覚情報は左の後頭葉に、左側から入った視覚情報は右の後頭葉に伝達されます。

その後、後頭葉に到達した視覚情報は、後頭葉の前方に位置する頭頂葉側頭葉の2つの脳に伝達されていきます。

where回路:赤い線 what経路:緑の線

後頭葉→頭頂葉(where経路):物がある方向や距離を認識する経路


後頭葉→側頭葉(what経路) :物の形を認識する経路

この2つの経路に分かれると言います。

その後、

where経路の情報は、前頭葉の運動に関連する領域に向かうとされています。

what経路の情報は、前頭葉の下方にある海馬や偏桃体など、記憶や情動をつかさどる領域に向かいます。

物の価値や意味を憶えておく機能に関連すると言います。(脳科学辞典)

脳卒中において、上記の視覚の神経経路の損傷では、下記の例のような様々な視覚認知の問題が起こります。

例)
半盲
視交差から後頭葉の間の神経経路で損傷すると起こる。左右どちらかが見えなくなるという現象。
   
視覚失認
what経路が損傷するとが起こる。
見た目では物が何か分からなくなるという現象。

半側空間無視の病態

半側空間無視は、上述したwhere経路what経路を含む、広範な視覚認知のネットワーク損傷により引き起こされると言われています。

症状

損傷した脳と反対側の空間への注意が向かなくなる現象が起こります。
半分の空間を見落としたり、半分の空間が無いもののように振舞います。

空間無視を自覚できないことも症状の一つです。

左側の空間無視が多い

右脳の方が空間認知は優位な事が多く、左半側空間無視の症状を持つ方が多いです。

左手足の運動麻痺、感覚障害を伴っていることが多く、麻痺の左手足を動かすように促しても、注意が向かず、応じにくいです。

麻痺側手足が動かないことを自覚していない、病態失認の患者さんも多くいます。

玉ねぎ現象

玉ねぎ現象というものがあり、左への無視がある方は視線が右に向きやすいのですが、向いた先を中心に更に視線が右に向いていってしまいます。

また右からの刺激だけどんどん入ってくるため、目線がますます右を向き、全身の姿勢は捻じれていってしまいます。

生活上の問題

・患者さんがベッド上で常に片方ばかり見ている。

患者さんが無視側から声をかけられても気づかない。

・車いすの無視側にあるブレーキがかけられない。

・食事は半分を見落として食べない。

などが見られます。

視覚ワールド

ここまで半側空間無視の病状と、生活上の困難さについてお伝えしました。

しかし私は、半側空間無視の方が抱える最大の苦悩は、以下のことであると考えます。

それは、視覚ワールドの崩壊です。

レンズでゆがんだ視界

アメリカの心理学者、ジェームズ・J・ギブソンは「視覚ワールドには境界がない」と著述しています。

人間は物を見る時、何の疑いもなく、ただそこに物があるかのように感じますが、実際は脳内に作り出した視覚ワールドで物を見ています。


例えば今、皆さんはパソコンかタブレット、携帯の画面を見ていると思いますが、自分の後ろに今、何があるのかを知っていると思います。


さっき振り向いた時の記憶や、そこに移動してきた時の記憶などを元に、人は頭の中に視覚ワールドを構築し、自分の周囲を把握しているのです。


途切れ目のない視覚ワールドを脳の中で作ることは、自分の身体の状況、環境との関係を理解するために重要です。

半側空間無視の視覚ワールド

見えない、わからない

半側空間無視は、視覚ワールドが崩壊した状態と言えるでしょう。

これを起こした人間は、自分の周囲のどこに、何があるかが把握できなくなります。


今目の前に見えている物についても、その物と周囲との関係が分からなくなります。


彼の目に見えている物が、動いていくための手掛かりにならないのです。


視覚ワールドを取り戻していく事が、リハビリをする上では急性期から取り組むべき、最重要課題と考えます。

半側空間無視のリハビリ

①まず姿勢の安定を促していく
半側空間無視の方は運動麻痺・感覚障害を伴っていることが多く、バランスを見失っていることが多いです。


バランスを見失った状態では、患者さんは注意を向ける訓練をするどころではなくなります。


急性期ではバランスが悪いと、身体の緊張を強めるとともに、制御が効かなくなったように目線もどんどん非麻痺側へ向いていきます。

視覚ワールドを構築していくためには、身体を床面に安定させて、なるべく良い姿勢でリラックスしている事が重要です。

②麻痺側の手足を刺激する

麻痺側の手足などをマッサージをしたり、麻痺側手足で何かに触る、麻痺手を使っていくなどの刺激を入れることは重要です。

麻痺側の空間を把握するためには、その空間にあるはずの麻痺側手足を感じる事が良いリハビリになります。


③テーブルに手を置いて、目線や身体を動かす。
おススメのリハビリを一つ紹介します。

椅子に座った状態で、テーブルに手を置いて、目線や頭、体幹を動かしていくというものです。

テーブルに置いた手は動かしてはいけません。
押し付けてもいけないです。


そのまま身体を前後に動かしたり、左右に後ろへ振り向いたりします。

自分が空間に対して、どの方向にどれだけ動いたのか、手の感覚によってモニターできます。

難易度は高くなりますが、出来れば麻痺側の手をテーブルに置いて行えた方が良いいです。

日常生活に復帰された方へ

リビングの椅子

日常生活に戻った方で、急性期は半側空間無視があったという方は、もしかしたら今も麻痺側には注意が向きにくい様子が、少し残っているかも知れません。

そう感じたら、上の①、②、③を意識した自主トレをすると良いでしょう。

安定した姿勢を保った中で、麻痺手にハンドクリームを塗ったり、タオルで麻痺手を肩周囲・肘から拭く、太ももや膝回りを拭いたりするなども、良いリハビリになります。

視覚ワールドの再構築は絶対に重要です。
人間は皆、自分で作り上げてきた視覚ワールドに住んでいるのですから。


参考文献:
1.視覚ワ-ルドの知覚 /新曜社/ジェイムズ・ジェロ-ム・ギブソン
2.神経解剖学/朝倉書店/新見嘉兵衛

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